人々が質屋を利用するのは、なにも資金の都合をつけるためだけとは限らない。別の利用の仕方もあるのだ。作家・伊藤整のエッセイに「ニューヨークの質屋」という、ひじょうにおもしろい一編がある。ニューヨークの繁華街の五十七丁目にある、金持ちのための質屋の話だが、ここでは、時には競争馬も質草に取るらしい。もちろんきゅう舎に預けて飼育するのだが…。この質屋に二〇年間、毎年三ドルの利息を支払って、祖父の代からの金時計を一〇ドルで質に入れていた男がいた。男は、なぜ、そんなことをしたかというと、受け継がれてきた金時計を息子に手渡すのに、彼が大きくなるまで大事に保管しておきたかったことと、もう一つは、保管金庫を借りるより質屋の利息の三ドルのほうが安かったからだという。これは前に、土蔵を持たない江戸の商家が火事から大事な品物を守るために、質屋の蔵に入質していたと述べたが、それと同じ使い方が、現代のニューヨークでもなされていたわけである。つまり、質尾というものの利便性、安全性を考えて、それを金庫代わりに利用していたのである。質屋の仕組みと機能をこころ得た、賢明な利用法であろう。